銅賞

「アーリー・バード」

仲野 薫

     こぽこぽこぽ……。静まりかえったキッチンで、父がドリッパーでコーヒーを淹れている。こげ茶色のコーヒー豆から湯気が上がり、香ばしいあのアロマが部屋中に広がる。
  まだ、朝四時。辺りはまだ真っ暗だ。父の朝は早い。仕事へ出かける前に、コーヒーを飲むのが長い間の習慣になっている。
  目を閉じて、静かにカップのコーヒーの香りを嗅ぐ父は、どこか和らいだ表情をしていて、幸せそうだ。
  普段は、父に対してかなり冷たい態度を取ってしまう私だが、コーヒーを飲む、朝の父を私は密やかに格好良いと思っている。(絶対に本人には言えないが)
  これから働きに行く前のほんのわずかなひとときだけれど、淹れたての美味しいコーヒーを飲むという、あの余裕に何か、贅沢なものを感じてしまう。香ばしい匂いは、疲れた体と心に安らぎを与えてくれる。
  「じゃあ、行ってくる。」
そう言うと、父はそそくさと仕事に出かける。外は、真っ暗で寒い風が玄関から入ってきた。
  コーヒーは、大人として生きることの格好良さを私に教えてくれる。酒とは違い、コーヒーは夢から醒めて、現実に向き合う人を癒し、支えてくれる。あの深い、ビターな味の中にはそんな魔法が隠されているようだ。
  早朝の冷えたキッチンで、静かにコーヒーを淹れる父に、そんな、コーヒーのエレガンスを感じてしまった。

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