
今村 久美子
仕事と温泉が趣味の夫。その夫に突然の肺癌の告知。癌は治る病気。何の心配もないと夫婦で二人三脚の治療に専念。半年後癌は消えた。
退院後、ほっとした私は、結婚後、今まで心にためた不平不満を夫に向けた。何故こんな事を言うのだろうかと思うほどだった。
これでは、夫は再び病気になる。そう直感した私は、恩師に手紙で相談した。再度入院したら、私の全エネルギーを夫に傾けられない程、私の気は弱っていたのである。
恩師の返事は、速達で届いた。「人の欠点が許さなかったり、後から責めるようなことをしてはいけない」
便箋一枚一枚の言葉は私の胸にグサッと突き刺さり、夫に申し訳ないと思った。
泣きながら読み返した。何回も。何回も。
思えば、偉そうに思い上がった態度を、夫に向け家族に向けていた。感謝することを知らず、それが当たり前のように生活していた。
二ヵ月後、検診で再び入院。やっぱり……。夫の無限の生命力を信じ、またすぐに治るよと再び私の全エネルギーを夫に向ける。
家族で花屋を営んでいる私たちは、十時と三時に主人の声がかかる。コーヒータイムである。早く退院して、「お茶を飲んど」の声が聞こえるように今、店を守っている。
仕事の合い間に病院へ走る私。疲れている私に、「おんじょんぼじゃっで、ここに寝れ」とベッドを譲ってくれる夫。当たり前だと思っていた夫のしぐさに、今は感謝している。
「只ひとつさながらにしておんじょんぼいたわり合いつつフィナーレの年齢(とし)」
※なお「おんじょんぼ」は鹿児島の方言で「老夫婦」のことを意味する。